生活を泳ぐ。

ADHDとかASDとか。人生はフィクションです。

【一日一捨】Day 9

一日一捨。9日目はスターバックスカードとIDカードホルダーを捨てる。

スターバックスカードとIDカードホルダー

人生で初めてのバイトがスタバだった。大学に入りたての頃だ。

 

採用面接で将来の夢を聞かれて当たり障りない答えで誤魔化そうとしたものの、今がつらすぎて未来に思いを馳せる余裕など微塵もなかった当時の私は惨めさからその場で号泣してしまった。

だから当たり前に落ちたと思っていたら、店長がおもしろがって採用してくれたのだ。

当時の私は長年のいじめと家庭内暴力に曝され完全な人間不信に陥っていて、ほんとうなら接客業なんてできるはずもなかった。

それでもやってみようと思ったのは、自分を変えるためだった。

やられっぱなしで終わりたくない。このまま過去に囚われたくない。

自分の人生なのに、いじめとか家庭内暴力とか外からの要因でめちゃくちゃにされたまま泣き寝入りするのが悔しかった。

スタバはとくに接客に力を入れていたから、仕事で逃げられない状況で人と関われば少しは人間不信もマシになるだろうと思った。曝露療法みたいな発想である。

その話を店長にしたら「え、うちそういうセミナーじゃないよ?」と笑ってくれた。

世の中には変わった人がいるな、と思った。

 

初めてのバイト生活は、それはもう楽しかった。

スタッフは皆やさしくて、オフィス街という立地のおかげで常連のビジネスマンがさっとコーヒーを買うのがメインだったから、接客もさほど苦にならなかった。

もちろん覚えることもたくさんあったし、私は自分のメンタルの問題をしっかりオープンにしていたわけではないから、つらいこともあった。

毎回出勤前に薬を飲んで、それでも人が怖くて行きたくないと思って泣いたりしてたけど、仕事自体は楽しかったし、簡単に投げ出すのは嫌だった。

このときの経験がなければ、私は働くことが好きだと思えていなかったと思う。

 

IDカードホルダーはお世話になった先輩から譲り受けたもの。

スタバの日本上陸15周年記念として従業員に配布された非売品らしい。

そう聞くと捨てるのが忍びないけれど、持っていても使わない。

せっかくの思い出を捨てるなんて私は人でなしなのかもしれないな。

けれどどうせ消えてしまうのだから、持ちものは少ない方がいい。

 

スタバに行かなくなってどれくらい経っただろうか。

今は大学をやめて、田舎に引っ越して、駅からうんと離れた不便な場所でひとり暮らしているから、わざわざスタバに行くことはもうないかもしれない。

もともとコーヒーもフラペチーノもそんなに好きではなかったし、一緒に行く相手もいない。

でもあの頃の楽しかった気持ちは、きっといつまでも覚えている。